色々と米澤穂信作品を読み返していました。
秋期限定栗きんとん事件(上下)/米澤穂信
小市民シリーズのベスト
小市民シリーズは「春期限定いちごタルト事件」「夏期限定トロピカルパフェ事件」「秋期限定栗きんとん事件」「巴里マカロンの謎」と4作品ありますが、やはり「秋季限定栗きんとん事件」が特に好きですね。
上下巻にわたって主人公とヒロインが個別に動き、最後に相対する構図もすごく好きですし、二人の会話も、「遠まわりする雛」のような迂遠さがあって、ものすごく好みです。
ほかにも、「主人公の小鳩くんが新しくできた彼女に三股をかけられていることを知らされても、まったく意に介さずに付き合いつづけることで人間失格扱いされる」シーンとか、「とても出来た人物である健吾が、高校生生活における小鳩くんとの奇妙な友人関係を振り返り「最後の会話」をする」シーンとか、キャラ的な見どころが多いので読んでいて大変楽しい作品です。
やっぱり、小市民シリーズのベストかな、と思います。
浅はかな瓜野くんに感情移入させられてしまう
ただ、「秋季限定栗きんとん事件」を読んでいると、瓜野くんにどうしても感情移入してしまう部分もありますね。
特に瓜野くんが小佐内さんにこっぴどい仕打ちを受けるシーンは、いつ読んでも、作中のあさはかなキャラクタがやりこめられている快感よりも、 やられてる立場に感情移入してしまって、ギュッと心が締め付けられるような気持ちになります。
自分が過去に現実で行ってきたあさはかな判断とか、なにものかになろうとしながら、なにものにもことができない現実を目の前につきつけられるんですよねー。
瓜野くんは、色々なところで思慮が足りず、自分が見たいものしか見ず、スポーツなど地道な努力が必要な苦しい道は避け、それでいて、何か自分自身は成し遂げられると思っているキャラクタです。
そして、その性質から、色々な事象を、自分に都合よく、受け取ってしまいます。
まあ、高校1年生だと思えば、そんなものなのだけれど、自分自身の弱い部分を見せつけられているような気分にさせられるところはあります。つらい。
まあ、そこがこの作品の良いところなんですが。小市民シリーズはこういう全能感が無能感に変わる感じの描写が面白味ですよね。
巴里マカロンの謎/米澤穂信
小市民シリーズの最新作
最新作の「巴里マカロンの謎」は、春季限定~夏季限定の間の話です。
時系列的に、小鳩くんと小佐内さんの関係性を進展させたり、大事件を起こしたり、深堀りさせるようなことができないからか、少し、パンチに欠ける内容です。
「秋季限定栗きんとん事件」からの流れで読むと、肩透かしを食らう感じですね。
小佐内さんの女の子らしさが強調して描かれているのは面白いのですが。
(一番長いベルリン揚げパンの話が、長さの割には爽快感が薄いように感じたのも、そういう感覚に拍車をかけているのかもしれないです)
よって、今から初めてシリーズを読むのであれば、時系列順(春→巴里→夏→秋)で読んだ方が、良いのかもしれないです。
(最後、けっこう二人で外出するので、夏季限定での小鳩くんの「街歩きは久しぶりだ」述懐と矛盾が出てきてしまい、気になる部分もあったりします)。
満願/米澤穂信
いつ読んでも「万灯」にガツンとやられる
「満願」に収録されている、仕事に人生を捧げた結果、仕事の達成のために殺人を犯してしまう商社マンの話「万灯」は、いつ読んでも疲れてしまいますね。
(殺人を犯してしまうのは駄目だとして)困難があってもハードワークで乗り越え、仕事による自己実現を目指す主人公の価値観が、自分の所属する組織のスタンダードに近いものであることもあり、自分の価値観との差分に思いをはせてしまいます。
まあ、その価値観に従って、仕事に勤しんだ結果が、特に幸福につながっているわけではないことも示唆されるのですが。
尚、満願は重い話が多いので、ハードカバーで読むと雰囲気が増すのでおすすめです。
リカーシブル/米澤穂信
主人公の強さに救われる
「リカーシブル」は全体的にネッチョリとした感じの作品で、正直、さほど好きではないのですが、同じような雰囲気の作品である「ボトルネック」の救いようのなさというか、読後陰鬱になる感じとは正反対に、主人公の気持ちの強さに救われる作品で、読むと元気が湧いてくる部分はありますね。
状況が悪くなっていく中で、現実的に出来ることを探しながら生きようとする姿勢は、自分に足りないものでもあり、こんな風に、強く生きられたら、どれほど良いだろうか、と思ってしまうところはありますねー。