スキップとローファーの10巻が発売になりました。
スキップとローファーという作品自体はアニメ化も終わり、物語としても小休止のタイミングで若干落ち着いているのですが、年始の能登の震災で最も被害を受けたエリアがみつみ(および作者)のまさに出身地であり、リアルとの関係では激動の巻でした。
その辺、読者としてもちょっとどう受け止めればよいのかわからない感じもなくはないですが、感想をだらっと記載しておきます(ネタバレあります)。
能登里帰り旅行編について
また迎井くんが本音ミカに遭遇している…(友達ポジ)
なんだかんだ間の悪い男である迎井くん、ミカ=ナオさんの隠れたつながりを当然知らないので、ミカがナオさんに個別相談しようとしているタイミングでノコノコとついていってしまいます。これはまあ、迎井くん悪くない。
そして、ミカもミカで、もうすでに迎井くんには志摩くんに告白して玉砕済みであることは知られているので、迎井くんのことは気にせずにナオさんに個別相談を普通にしてしまいます。
まあ、ミカがやりたかったことからすると、迎井くんがいてもいなくても関係ないので、それはそうか、という感じではあります。
ただ、居合わせた迎井くんからすると巻き込まれ事故も甚だしいすね。ある意味かわいそう。毎度ご愁傷様です。
迎井くんの遠慮のない感想好きだわ
しかし、そこで冷静な場所から
「自分のことばっかっちゃばっかだな。フラれるのもわかってて禊みたいな。聡介の気持ちみたいなところは薄いっつーか」
と志摩くんのことを考えつつ
「でも、スゴくないとも思えん」
とミカの告白を評するのが迎井くんの誠実なところとスキップとローファー感が出ていて良いですね。
人と人の関係や人の気持ちというのは割り切れんものですし、だれの目線から見るかによって、物事の良し悪しは変わってくるものです。
迎井くんとミカの関係性が今後どうなっていくのかは楽しみですね…。良い友達にはなれそうなんですが。
(10巻時点で迎井くん×ミカの恋愛の方向感があるわけでは全然ないですし、スキップとローファーという作品で安直にそこをカップリングするかというと多分しないだろうなーと思いますが)
志摩くんの「手放さないとな」がわからん
10巻を読んでいて全然わからなかったのは志摩くんの「手放さないとな」なんですよね。何をなんだ?
前後の描写を見ていても、「手放す」という表現の述語がよくわからんのです。
高校生活の方ではなく、過去なんだとは思いますが、別に志摩くんも過去に執着しているわけではないんですよね…。
仮に「過去」を指している場合、「切り替える」「忘れる」とかであればわかるのですが、「手放す」って何でしょうね。
そのあと前向きに頑張っている描写が良い傾向なのか、無理をしている方面の悪い傾向なのかもよくわかりません。
良い方向に変化しているとすれば、作中で言語化されてないですが「自分を守る殻」とかなんでしょうかね…。いや…それも違いそう…。
尚、そのあとのシーンでみつみが志摩くんとの付き合っているポジションを「手放したもの」と評しているのはあえての表現と考えられます。
おそらく無関係ではないと思うのですが、この流れで志摩くんがみつみとの関係を指して「手放す」わけではないと思うんですよねー。本当にわからん。
(作中で手放せるものとして扱えそうな「みつみからのたったひとつの特別な感情」は言葉としては正解に近いっぽいのですが、文脈的には違うんですよねー。この流れでそれ手放すのはサイコパスだろ。)
能登半島地震との関係
尚、この里帰り旅行編は連載のタイミング的にはちょうど2024/1/1の能登半島地震発生前に連載されていたものと思われます(アフタヌーン2023/10~12のはず)。
なので、能登半島地震を前提としていない描写ではあるのですが、焼失した能登の朝市や被害を受けたエリアの観光名所の千枚田や禄剛崎灯台が描かれている様子を見ると、複雑な気持ちになりますね…。
巻末にスキップとローファーの世界では架空の都市であり、そのまま続いていくと記載がありますが、家族の別れ際の挨拶とか、ナオさんのゴローさんへの電話とかをどう受け止めたらよいのかわからないですわ。
(ぼくは石川県に2年以上赴任していた上、最北端の珠洲エリアが好きだったので、どの名所も複数回行ったことがあり、それぞれの場所に思い出があります。仕事で担当していたエリアの関係上、直接的な知人はいないのですが。
尚、僕はスキップとローファーの世界で能登半島地震を織り込みにいかないのは賛成です。主題とは違いますし、作中でそれを織り込んだとして、だれも幸せにはならないと思うので。)
要領の良い元生徒会長風上先輩覚醒編について
まさかの風上先輩のお悩み話が来たのは驚き
えー、次お前にスポットライトが当たるの!?って感じでしたが、10巻の後半では、何の悩みもなさそうだった元生徒会長の風上先輩に急にスポットライトが当たりました。
「要領良くやって、レールにしっかり乗って生きる」タイプの風上くん、読者的には全然悩みがなさそうに見えましたが、とはいっても高校生なので「こうやって白けた気持ちでレールに乗っていていいのか」という気持ちが3年生になると出てきたようです。それはそれで自然ですよね。
(レールに乗るためにすごく努力をしていても、本当の意味で自分で決めたことをやっていなければ、そういう気持ちはどこかで鎌首をもたげるのはそうだと思いますわ)
そして、基本属性が陽のものである連中(みつみとか)は陽の極致である兼近先輩をぶつけて救うしかないので、例のごとく兼近先輩が意図せずにメンタルを救っていきます。
普通に考えて、風上先輩があんなブチ切れ方をしたら常人では追いかけることもできない気がしますが、兼近先輩が追いかけていく分には全然違和感ないですね…。空気を読まない男、さすがである。
風上先輩っぽいハイレベルなお悩み解決
しかし、ソフビ人形を取り戻しに行くんかな…と思いきや、取り戻しに行かなかったのはかなり意外な展開でした。
結局、風上先輩がモヤモヤとしていたのは、「勝手にソフビを捨てられたこと」自体ではなく「親に自分の価値観を侵されているのに、それを最終的には受け入れてしまっていた自分」へのモヤつきだったんですかね。
それが本来は受け入れなくてよくて、自分のこだわりを貫いてもよいものと自分の中で確信できれば一旦はそれで良かったんでしょうね。
しかし、兼近先輩との会話での
「まーでもそうだよな。全然よくねぇよな。」
からの
「(全然よくねぇことがわかった)それだけでいいんだよ」
は吹っ切れ方として非常に良かったですねー(※括弧内は原文にない文脈の補足です)。
人間、譲れない一線は譲ってはいけないんよな。そして、その気づきを得たことをあえて外に出さないのもいいすね。
どこに向かったのかがわからんが、描かれるのかなー
尚、風上先輩、ここまでそんなに内心が語られているキャラクタではなかったので、吹っ切れた結果、なぜ東京大学から京都大学に志望校を変更したのかは具体的にはよくわからなかったりします。
ただ、進路を変更する直前に「頼まれたことを良い顔しておいてやらない生徒」「理不尽なことでキレ散らかす保護者」が描写された上で、先生の「自分のためだけに要領よく生きるのは違うと気づいた」という趣旨の会話があることを考えると、なんらか自分の正義を実現する方向に進もうと思った、というところなんですかねー。
(仮面ライダー(作中ではダイバー)が好きというのも、根っこのところでは正義感が強いということの表れなように思いますし、文化祭での受験希望者の学生への対応や、10巻でもなんだかんだ生徒会にも顔を出して面倒を見ている描写なども見ると、そういうことなんじゃねーかな、という気がします)
もう少し答えが欲しいなぁ…と思うのですが、さすがにキレ散らかしたあとの生徒会を放置したままでは違和感があると思うので、今後の話できっと解答があると期待です。
全体
とまあそんな感じで、小休止のタイミングながら、色々とあり、相変わらず面白かったです。
志摩くんの動きが不穏なのが気になりますが、11巻でまた大きく動いたりするんですかね。
ただまあ、正直志摩くんの過去話にはもうあんまり興味はないので、変な大人キャラみたいのは出てきていただきたくねぇな…と思っちゃうとこはあります。クリスだけいればいいよ。
劇的なものはいらんので、学園生活の中で自然体でお悩み解決して欲しいんですわ。次巻も期待しております。