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冬期限定ボンボンショコラ事件(米澤穂信)の感想。小市民シリーズが完結してしまった…(多少ネタバレあり)

冬期限定ボンボンショコラ事件が出てしまいました。早速読了したので感想です。感想というか、やっぱ二人の関係が最高だよね!という走り書きでしかないのですが。

異世界転生みたいなあらすじで生死の境目をさまよう小鳩くん

今作のあらすじは以下なのですが、書き出しから小鳩くんが車にひかれて病院送りになっており、異世界転生でもしそうな流れになっていてちょっと面白いです。いや、別にそんな意図はなにもないんでしょうけど。

小市民を志す小鳩君はある日轢き逃げに遭い、病院に搬送された。目を覚ました彼は、朦朧としながら自分が右足の骨を折っていることを聞かされる。翌日、手術後に警察の聴取を受け、昏々と眠る小鳩君の枕元には、同じく小市民を志す小佐内さんからの「犯人をゆるさない」というメッセージが残されていた。小佐内さんは、どうやら犯人捜しをしているらしい……。

それはそれとして、春期限定では自転車泥棒に遭い、夏期限定では拉致され、秋期では放火魔の相手をし…と高校3年間の出来事にしては結構重大事件に遭遇している2人ですが、1人が瀕死の状態で開始するのはさすがにショッキングですね。強制で安楽椅子探偵やるとは思わなかったぜ。

(わりと傷害事件系の犯罪行為を伴う事件が多いので、けっこう治安悪い印象ありますよね、小市民シリーズの舞台。)

てっきり小鳩くんと小佐内さんが夏期限定みたいに街をうろちょろしてくれるのかと期待していたのですが、二人がゆっくり会話をするのは冒頭の事故の直前のみなんですよねー。
せっかくヨリを戻したのに、全編別れてた秋期限定とあんまり変わらないじゃないですか。もっとヨリを戻したあとの2人の平時のキャッキャしてるやり取りを見せてくれよ米澤穂信先生ー!!!

小鳩くんと小佐内さんの会話は少ないながらも濃密

とはいえ、さすがに4部作の最終巻ですし、解決編の会話は濃厚です。秋期限定のラストの会話を踏まえて、さらに一歩踏み込んだ会話が素晴らしいですね。

秋期限定では離れてみてお互いがお互いを必要としていることを実感し、高校生活の間は、という限定条件付きで互恵関係の継続を決めたわけですが、限定条件が終わるタイミングで、小佐内さんから「≒この先も一緒にいたい」という告白があったわけですよ。
そして、「≒あなたが解きがいのある謎を用意して待ってる」という言い回しもエモい!イチャイチャしすぎやろ。

いや、小鳩くんからしたら「京都に来なかったらどうなるかわかってんな」ぐらいの脅迫を受けているようなものかもしれませんけど。でも、小鳩くんは振り回されるの大好きだからな…。

小鳩くんの「やりたいこと」も最高ですよね。これまでの3部作での思い出の品を振り返りながら、「二人で食べに行きたいな」って人たらしにもほどがあります。
夏のスイーツめぐりの合間に食った金竜の激辛タンメンのことも少しは思い出してやれよ!健吾が泣いてるぞ!

最後の一粒とはいったい…

まあそれはそれとして、小佐内さんのラストのセリフ「最後の一粒をあげる」の意味はどうとらえればいいんでしょうね。
ボンボンショコラの最後の一粒以上の意味が当然あると思われるのですが、小佐内さんの気持ちとかそういうものを指してるんでしょうか。小悪魔がすぎる。

イチゴタルトも結局食えてないし、トロピカルパフェもどろどろの台無し状態でちゃんと食えてないし、くりきんとんも最後の1口は小佐内さんに取られて小鳩くんは食えてないので、高校生活のやり残しシリーズの一つ、ということなんですかね。
「お前のやりたいことリスト(冬編)にこれも加えとけよ」というメッセージでしょうか。それはそれでいいすね。

謎解き自体も想像のギリ外側をついてくる感じでよき

肝心のミステリー部分ですが、トリックや動機も含めて、文中で示唆されるのを読み取って自然に想像できる範囲のぎりぎり外側をついてくる感じの解答編でこれも良かったです。

堤防が密室状態から車が消えたトリックも想像がつく内容ですし、ひき逃げ犯についても、場面が病院固定・過去編であえて描かれる会話から正体はわからないまでも、概ね想像がつきます。

ただ、核心の謎の部分がうまくずらされているのと、「やっぱそこも謎だったんだ!」思わせる隠れた謎の設定から、解答編での驚きは十分あるのが良いですね。
正直、小佐内さんが過去作で暗躍しすぎていて、今作の「何故か会えない小佐内さん」を謎としてとらえていいのか確信が持てなかったぜ…。平常運航なのか判断が付きかねすぎる。

ただ、謎自体は「儚い羊たちの祝宴」みたいな読み味の謎なので、これをやるのにページ数を使いすぎな気はしますが…。
「二人の距離の概算」みたいな回りくどさもありますしね。いや、「二人の距離の概算」も面白いんですが…。好みの問題ですね。

しかし、完結しちゃったの悲しいすね

春期限定イチゴタルト事件からずっと好きだった小市民シリーズですが、当時同年代だった自分も気が付いたら20年近く経って、普通におっさんになってしまいました。いやぁおひどい。
一回Gファンタジーで漫画化してるんだぜこのシリーズ。誰か覚えてるー…?

↑どこにいても目立っちゃいそうな可愛さの小佐内さんがデイトレードで金を稼ぐシーンが見られるのはコミック版だけ!(ほかはかなり忠実な漫画化です)

「氷菓」に代表される古典部シリーズも大好きなのですが、もっと好きな小市民シリーズが終わってしまって寂しいやらなんやら…。小市民シリーズ、京都編書いてもらえませんかねー。大学生になった2人をみたいですよ。

ちなみに、4部作の中で僕のベストは断トツで秋期限定栗きんとん事件ですね。小佐内さんに心がへし折られる瓜野くんが最高なんですよねー。人間の心が理解できない小鳩くんも含めて、何回読んでも大好きですわ。
古典部のほうたると諦観が似ているようで、本質的な人間としてのやさしさ度が違うんですよね、小鳩くん…。