ボトルネックやさよなら妖精系の後味悪い系米澤穂信作品でした。まあ後味悪いのはいつものことなので、平常運行という説もありますね。
感想を簡単に記録しときます。
ミステリ部分
個別のミステリはかなり薄味
短編を貫く大枠のミステリを除くと、かなり薄味の短編が続く作品ではあります。
「浅い池」とか流石にそのトリックは読めるよ!タイトルも浅い池だし!みたいな感じですね。
「重い本」も「防空壕と重い本、何もないはずがなく…」って感じで読めすぎ感もあります。短編一つ一つの謎の意外性はあまりないです。
大枠のミステリは驚きがある
一方で、本作全体を貫く違和感(主に切れ者で問題が起きれば熱心に解決するが本丸の業務には全く熱心ではない課長)の解答は、相応に驚きがあります。
課長の言動や一部の行動の一貫性、弟や土木課との会話などを踏まえると想像できる解決編ではあるものの、この構造を思いついた時点で勝ち、ですね。面白い。
短編を貫くものがあると、短編の小出しの謎があっさり目でも楽しめますね。
結末がひどい、という話
主人公の万願寺さんが不憫
しかし、ボトルネックと同じなんですが、主人公の万願寺に対してはまあまあひどい結末ではあります。
蘇り課で走り回ってきたことは結果的に「市」にとってベストな着地になったとはいえ、努力は全て無に返し、「経済合理性が市民に奉仕する」という考えを真っ向から破壊されたわけですから…。
まあひどい。しばらく働けないかも…って感じですね。
まあ、無限に税収があるわけではない中、撤退戦は当然考えないといけない中で、公務員として矛盾を抱えながら飲み込んで働くよりは、改革派に取り込まれた方が良いような気はしますが…。
甦り課のキャラは魅力的(読後感クソだけど…)
それはそうと、本作のメインメンバーである蘇り課の面々は魅力的で良かったですね。
小市民シリーズや古典部シリーズのようにシリーズ化してもおかしくないキャラ付けでした。
「やれやれ系」だけど面倒見の良い主人公万願寺、元気で快活な新人観山、昼行燈の西野課長(安楽椅子探偵役)の3人は皆魅力的です。
観山さんは「超巡!超条先輩!」のヒロインみたいなキャラ造形してて(表面的には)嫌なところがないですし、西野課長もいざというときには切れ味鋭く問題を解決します。
なんだかんだ頼り甲斐があって良いメンツが揃ってるんですよねー。
↑左上の後輩キャラみたいなイメージで読んでたんですけお…
まあ、問題は徐々にそういうポジティヴな気持ちにさせられているところを、一気に落とされるところなのですが。
万願寺の気持ちをガッツリ追体験できるようになっているのがひどいですよね。
特に観山さんに対しての感情は結構ぐちゃぐちゃになれます。
「指導役」を自認してたのにこの状況、実際にやられたら立ち直れんやろな…。万願寺さん道化オブ道化なんですよ。ひどい。
万願寺さん、強く生きて欲しい
まあ、一生トラウマになりそうな結末ではありますが、「努力すればするほど誰も幸せにならない」という最悪の結末は回避できたわけです。
その点で言えば、今回の結末は万願寺さんが抱えてしまった時限爆弾的な仕事が早く処理できたわけで、複雑な気持ちはわくにせよ、ある意味「良かった」わけですよね。
(スクールバス問題もそうですが、積雪する地域での除雪コスト積み上がりはキツい…外貨獲得できないどん詰まりを維持する意義とは?は本当にそうなんですよね。全ては市長が悪い。)
割り切れない気持ちが残るような気もしますが、引き続き西野課長と市の問題を火消ししていく仕事に携わるのは当人にとって良いのではないでしょうか。
万願寺さんには頑張って欲しいところですね…。いや、本当にひどいなこの話…。当初意思決定した人は責任取らないし、サラリーマンとしては身につまされますわ。