らーめん再遊記を一通り読んだので、簡単に各エピソードの感想をちょろっとずつ書いておこうと思って書いてます。
いや、なんか自分が読んだ内容、最近忘れがちなんですよね…(歳をとるにつれて顕著)。
ネタバレあるので、読んでなければ読まないほうが良いです。
シリーズ作品について
「ラーメン発見伝」「らーめん才遊記」から連なるシリーズで既刊数はシリーズでもかなり多めなのですが、過去作はマンガワンなどのアプリで無料で全話読むことが出来ます。
その点、シリーズとしては追いかけやすいのはありがたいところですね。
まあ、どうしても連載時期の関係と馴染み深いラーメンという題材から、「ラーメン発見伝」あたりは古さは否めないですが…。
ただ、最終回の味わい深さはすごいんですよねー、ラーメン発見伝。
(尚、基本的には2~3話で完結していく構成なので、ピンポイントで追いかけることも可能です。概ねコメント数が多い話でラーメンハゲがネットミームになった名言を吐いているので、コメント数を参照して拾い読みするのもいいかもですね。)
ラーメン再遊記の各エピソードの感想(天才原田編まで)
※エピソード名が不明瞭なものが多いので、なんとなくわかるように記載しています。
1~2巻(ミドルエイジクライシス編)
1~2巻(2巻は冒頭だけですが)では、ラーメンハゲこと芹沢がミドルエイジクライシスに陥り、立ち直る姿が描かれます。
前作、前々作では全く見られなかった芹沢さんの弱気な姿にちょっと度肝を抜かれるのですが、シリーズの蓄積ですねぇ。
正直、弱っている芹沢さんの姿はシリーズ履修者からすると、ある意味非常に面白く、目新しく映ります。
一方で、実際40代位に差し掛かってくる年代になってくると、自分の先の部分も見えてきたり、横ばいから下降に向けて動いている感じはし、気持ちはわかるところがあります。
(まあ、芹沢さんほどの成功を収めているわけでもないので、理解できている気になっているだけなのですが)
よくネットで見る「作る人間が評論家めいたことを言うのは、衰弱の象徴だ!」と言うコマは1巻にあります。
どうしても歳をとってくるとそういった傾向が強くなり、新しいことをしない言い訳をしてしまうところがありますね。
自分も作る人間ではないにせよ、肝に銘じたいところではあります…。
尚、別の作品ではありますが、僕は『官能先生(吉田基己)』で主人公が自分に対して「わかったような顔して老熟したふりをするにはまだ早すぎるぜ!!」と言うシーンが大好きだったりします。情熱を忘れずに行きたいものですわ。
↑関係ないが、官能先生は(特に2巻が)超傑作。連載再開が喜ばしすぎる。
2~3巻(ラーメンチェーンバイト編)
2~3巻では、社長を譲り会長職として時間を手に入れた芹沢が、身元を隠してチェーン「ベジシャキ豚麺堂」でアルバイトとして働く中、店における仲違いを楽しみつつ、問題を解決する話が描かれます。
芹沢が仲違いを焚きつけたりと「コイツ人間的にどうなんだ…?」というシーンが多いですが、芹沢以外のモブに「工夫力に強い能力を持つキャラクター」VS「創作性に優位を持つキャラクター」といった対比のあるラーメン勝負をさせるのは、料理漫画として面白みがある展開ですね。
また、ラーメンの味に加えて、QSCの3つがいずれも出来ていないといけない点にフォーカスが当たるのは「ラーメン発見伝」シリーズらしい着眼点で面白いところです。
また、ラーメン勝負で仲違いが消えて大団円!ではなく、さらにもう一展開あるのは面白味がありますし、去り際で心の中で悪態をつきながらもなんとなく物寂し気な芹沢も印象的で、全体的に見どころの多いクオリティの高いエピソードですね…。このエピソードはかなり好きですわ。
ただ、それはそれとして、「夜の声が大きいので恥ずかしい」みたいな下品なギャグが時々入るのは若干時代錯誤な感じもしてどうかなと思う部分はありますね…。
7巻あたりの小宮山編のあんかけ麺を食べて女性キャラが「あーん!」リアクションをするのとかもひどいのですが、もうちょっと時代に合わせたほうが良いのでは…と思います。
いや、まあ、昔からそういう作品だからいいんですけど…。
3~4巻(宇崎編)
3から4巻では、過去に芹沢も薫陶を受けていた先輩ラーメン職人宇崎の再生が描かれます。
この話は非常に好きで、らーめん再遊記シリーズの中でも完成度はトップクラスのエピソードですねー。
最近ネットでは天才原田編がよく取り上げられていますが、読後感の良さ、宇崎以外のサブキャラクターの造形も含めて、素晴らしく出来が良いエピソードです。
この話、らーめん再遊記にしては珍しく主要なキャラクターがほぼ新キャラだったりしますが、メインキャラである元ラーメン職人の宇崎、その弟子だった平田、トリックスターとなるヒロインポジションのカンナも含めて、全体的にキャラクターに変な癖がないんですよねー。客も変なの出てこないし…。
(基本的に「ラーメン発見伝」シリーズのキャラクターは女性はおかしな癖がありますし、ゲストの男性もやはりちょっとおかしな点があったりするので…。)
結果、「宇崎と平田の子弟関係」「宇崎とカンナの先輩後輩関係」「芹沢と宇崎の健全なライバル関係」といったそれぞれの関係に基づいて、互いに支援をしながら全員が幸せになる結末に向かっていくのが本当に良いんですよね…。
クソ野郎がいないだけでこんなに読みやすいのか、らーめん再遊記…。
最後の芹沢の「まあ、悪い気はしないさ」といったセリフから、新幹線の遠景に移るコマの流れまで含め、非常に素晴らしいですわ。
「らーめん才遊記」の「本物のラーメン屋だ」に通じる味のあるコマなので、これはぜひ読んで欲しいところですね…。
4~5巻(大江戸せあぶら軒編)
4から5巻では、それ以降のメインキャラクターになるグルタくんが初登場し、グルタくんの実家である大江戸せあぶら軒の再生に取り組むエピソードが描かれます。
が、まあ正直、別にそんなにめちゃめちゃ面白いわけでもないエピソードですね…。
最終的な解決策がチャーハンに着目するというのは良いのですが、ヒット商品になる「背脂チャッチャ☆チャーハン」があまり美味しそうに見えなかったりと、なんだかなぁ…というエピソードではあります。
なので、あんまりこう、記憶に残るところはないんですよねぇ…。1巻~4巻はじめまでの完成度がめちゃめちゃ高いので、盛り下がる感じは否めない印象です。
5~7巻(名店塩匠堂編)
新キャラのグルタくんを迎えて、老舗の名店塩匠堂ののれん分け店の再生に取り組む話が展開されます。珍しく3巻にわたって展開される話で、かなり長いですね…。
(「ラーメン発見伝」シリーズも含めて最長エピソードの可能性ありそうです。)
エピソードの主題である「名店の味の再現が出来ているのになぜのれん分け店が流行らないのか?」というミステリーに対するアンサーは非常に面白いですね。雰囲気重要。
ただ、肝心の最終的な再生手法がイマイチピンとこない感じなのが難点で、最後の最後で失速感があるのが残念です。
いや、新しいブランドとして「XXリスペクト系ラーメン」ブランドを立ち上げるという動きはうまくいく感じがしないんですよね…。
ABEMAだけでそれをやってもそうはならんやろ…という。なんとなく、ところどころ説得力に欠けている感じがするんですよね…。
あと、「ラーメン発見伝」シリーズ名物の唐突な酒乱キャラ設定とかもあまり好きではないですね。別にその設定いらんかったのでは…(これは好み)
いや、ラストの「すべては昔話か…」とかも含めて、芹沢の心理描写とかはすごく良いですし、前述の通り主題についてはとても面白く読めるのですが…。
7~8巻(外食コンサルタント小宮山編)
7から8巻では、ラーメンにトラウマを持つ、飲食コンサルタントの小宮山の再生が描かれます。トラウマを埋め込んだのは例のごとく芹沢です。
いや、ひどいなコイツ(別に芹沢自体は大したことはしていないのですが、泣き面に蜂はやっちゃだめやろ)。
全体的にあっさりしたエピソードで、小宮山のキャラもいけすかない系で別に良い点はなく、小宮山事務所の女性も「ラーメン発見伝」シリーズっぽい癖のある下品なキャラで個人的にはあんまり面白いエピソードではなかったですかね…(個人の感想です)。
見どころは7巻の「語る側の人間ならば何を言っても構わん。だが、作る側に来たからには駆け出しだろうがなんだろうが言いっぱなしは許されない。言行一致が求められるはずだ」という芹沢のセリフですかね。
このセリフは良くわかる話で、まあ別に外野の人が評論家的な発言をするのはまあいいのですが、内側にいる人が評論家的な発言をするのは許容しがたいのはそうなんですよね…。
それはそうなんよ。「殺す!」ってなっちゃうよね…。
(いや、だからといって手を差し伸べないのもちょっとどうかとは思うけれども)
8~9巻(インスタントラーメン編)
芹沢が因縁をつけられ、店主の性質も含めて救いようのない潰れかけの店を再生する羽目になる話です。
が、ほぼ取材旅行で概ねインスタントラーメンや乾麺について語っているだけのエピソードですね。
まあ、正直ビミョーな巻です。
いや、面白みはあるし、「らーめん再遊記」で取り扱う理由もわかるのですが、芯が通ってない感じというか。
キャラクターを変えた「めしばな刑事タチバナ」とか「美味しんぼ」を読んでいる感じというか…。フワフワしてるんですよね…。
もしかして、意外とラーメン対決を求めていたのか…?俺は…?そういうこと…?
あと、やっぱり因縁付けられる流れと、店主のキャラがクソ、というのが面白く感じないポイントとして大きいんですかね。なんか処理が雑なんですよね、このエピソード。単に取材旅行で取材した内容を見せられている感じです…。
(まあ、天才原田編につながる芹沢による乾麺店の実験自体は面白かったりするのですが)
9~11巻(天才原田編)
9巻終わりから11巻は芹沢を超える才能を持っていたラーメンの天才原田とのラーメン対決と再生を描いたエピソードです。ネットでも話題になってましたねー。
天才原田のキャラクター、エピソードの流れや結末も含めて3~4巻の宇崎編を彷彿とさせる内容であり、めちゃめちゃ面白く感じます。
(直前のインスタントラーメン編がかなりイマイチなのもあるのだと思いますが)
原田の予想外の動き、グルタくんが無茶苦茶やって解決に向かう流れと、どんでん返しが多く、読んでいて楽しいエピソードですね。
最終的に原田の説得に使われる「万人の形式」の話も、宇崎編の具体例を出しながら説得していく流れだったりするのも美しいですし、「プロセスなどどうでもいい。俺はラーメンそのものを評価しただけだ」といったキメ台詞もピリッとしていて良いですし、名エピソードですわ。
しかし、これだけの才能を持った男と店が過去に一言も話の種に登ってこなかったの、ルフィの幼馴染ばりの「存在しない記憶」感ありますね。「麺処なでしこ」始めるときとかにさすがに誰かが麺窟王を言及するやろ…。
全体
らーめん再遊記、なんだかんだ11巻も続くと微妙なエピソードもそれなりにあるのですが、特に宇崎編までの1~4巻、直近の9~10巻の天才原田編は面白く、それだけでも読む価値がありますね。特に3~4巻の宇崎編はめちゃめちゃおもしろいです。
一方で、作者のクセが相変わらず出ている部分もあり、ところどころでやたらとクセのあるキャラクターが出ていたり、ちょっと現代風ではない下品な表現があったりします。
また、電動キックボードLUUPへの憎しみが高まりすぎて作中で事故らせまくったりとなんともいえない部分はあったりはしますね…。まあ、ささいなところではあるのですが。
30代後半ぐらいからは芹沢や登場人物の気持ちにかなり共感できると思うので、ミドルエイジクライシスを感じている方は読んでみると良いのではないでしょうか。元気は出ますね。